音で涼をとる
日本独特の文化・風鈴
今年も暑い日が続いております。空調できちんと体温管理することも大事ですが、暑さと上手に付き合うことも、生活の知恵といえるでしょう。
特に「音で涼をとる」のは日本の夏特有であり、風を音色に変え、その風情を楽しむ風鈴は「日本の音の文化を象徴するもの」ではないでしょうか。
風鈴とは、家の軒下などに吊り下げて用いられる小型の鐘鈴で、そよ風が吹くだけでも、短冊が揺れ動いて舌が釣鐘に当たり、音が鳴るという仕組みです。風鈴の原型は、奈良から平安時代にかけて占いの道具として中国から入ってきた風鐸(ふうたく)だといわれています。
当時は銅や鉄製だったので、音色も異なっていたようです。風鐸を軒下に吊るしておけば、魔物がその音を嫌って中に入ってくることができないとされ、魔除けとして使われていました。
魔除けだった風鈴が、
戦後、夏の風物詩に
鎌倉時代になって風鐸は陶器でも作られるようになり、浄土宗の開祖である法然が風鈴(ふうれい)と名付け、17世紀に入ると「ふうりん」と呼ばれるようになったそうです。
江戸時代になると、青銅製の多かった風鈴にガラス製が登場します。当初ガラスは輸入か長崎でしか手に入らなかったので、大変高価でした。それが江戸末期になって安価になりガラス製の風鈴が江戸の街に広まりましたが、この時代でも風鈴の主な役割は魔除けでした。
意外にも夏の風物詩として風鈴が広まったのは戦後になってからで、比較的最近のことなのです。ちなみに風鈴の色は、戦前は魔除けを意味する朱色だったのですが、戦後はより涼しさをイメージさせる青色に変わっていきました。このように風鈴は時代とともに意味合いも変わってきたのです。
風の記憶を呼び起こす
風鈴の音に涼しさを感じる
現代の日本人にとって風鈴の音は、「風」を強くイメージさせます。湿度が高い日本では、気温の変化が無くても風が吹くことにより体感温度が下がるため「涼しい」と感じることができます。サーモグラフィーを用いた体表面の温度変化を調べた実験でも、「風が吹いている」という記憶を想起させる風鈴の音が、冷感を生じさせることが観測されており、同時に行ったアンケート調査でも「涼しさ」を感じる方が多くみられました。この現象はおそらく中枢での条件反射によるものと考えられます。
「風」が「涼しい」ことを何度も学習し経験することで、「風の記憶」を呼び起こす「風鈴の音」が条件刺激となって、「涼しさ」を感じさせるのではないでしょうか。この夏は風の奏でる音に耳を傾け、ほんの少しでも暑さを忘れてみてはいかがでしょうか。