正常な心理状態・生理状態で起こる錯視
水平線近くにある月が大きく見えた経験をした方は多いと思います。
実際に大きさが変わっているのではなく、目の錯覚、錯視によるものと言われています。この錯視が起こる原因はいまだに明らかにされていません。今回は、ちょっと不思議な現象・錯視について紹介したいと思います。
錯視とは、実物とは違うように見えてしまい、誤って知覚してしまうことです。目から得られた情報が脳に伝えられ、脳が処理する過程で起こる事ですが、脳の活動が原因であることが多いと考えられるので、脳の錯覚と呼ぶ方が正しいかもしれません。この現象は、正常な心理状態・生理状態で起こるものです。異常な心理状態にのみ生じる幻覚とは、明確に区別される現象です。
錯視を利用した交通安全対策も
錯視は、時として問題になる場合があります。自動車を運転しているときに生じるものがよく知られています。例えば、バイク・自動車・トラックが道路を走行しているとき、バイクは実際には自分の運転する車より近くを走っているのに、遠くに感じたりしやすいです。また、実際には下り坂が続いているのに、途中で上り坂に変わっているように見える箇所も意外に多くあると言われます。これらは、距離や速度の判断を誤って事故につながる危険性があります。逆に、錯視を利用して安全をはかる方法も実際に試されています。高速道路などで、減速を促すマークが路面に描かれていたり、縁石ブロックやハンプ(道路上のこぶ)が置いてあるように立体的に見える絵が施されていたりしたものを目にした方も多いと思います。
錯視の研究は眼からの情報を知覚するメカニズムを解明
日本の戦国時代・安土桃山時代につくられた城にも、錯覚の効果を利用したものが散見されます。愛媛県の宇和島城では、実際は5角形の縄張りですが、4角形の縄張りに見え、そのため守る側に有利に働きます。
色に対しても錯視があることが知られています。立命館大の北岡明佳教授は、ヒトの腕の静脈の色は青く見えますが、実際は灰色であることを突き止めました。この結果は、静脈注射の際に静脈の位置を正確に把握するための画像診断に役に立つのではないかと考えられています。
錯視を研究することは、人間が目から得た情報をどのように知覚するか、そのメカニズムを解明する手掛かりになります。今後、得られた知見から、びっくりするような活用方法を目にすることになるかもしれません。